泣けない自分の

父方の叔母が亡くなったと、妹から連絡があった。
彼女はまだ40代半ばだったと思う。子どもたちも上は確か高校生で、下はまだ小学生だったか中学に入ったくらいだったかのはずだ。
もう長いこと顔を合わせていなかったので、薄情に思われるかもしれないけれど亡くなったという連絡を受けたときもショックは受けたものの、涙が出ることはなかった。

家族と縁を切って生きているので、いつかは血縁者の中から亡くなる人たちも出てくるだろうなとは思っていたけれど、それがまだ若い叔母だったというのはショックだった。
人の生死に順番などあるわけではないけれど、それでも年齢で言えば祖父母から亡くなるほうが可能性としては高い。
当然ながらはみ出し者の僕には詳しい叔母の死因などは入ってこないが、何か持病を抱えていたのだろうか。事故だったのだろうか。
妹は「今日亡くなった」というフラットな口ぶりで僕に伝言を残してくれたので、きっと事故の類での急逝ではないのではないかという推測しかできない。



物心がついたときには、叔母は叔父(当時は彼氏)と小さなアパートで同棲をしていた。
茶色いタイルが外壁に貼られた3、4階建てほどのアパートで、広い県道沿いにあったはずだと思う。今は周囲も開発されて真新しい住宅が立ち並ぶようになったけれど、僕が小さかった頃は叔母のアパートと同じような規模のアパートや団地が立ち並んでいる区域だった。

何の目的で連れていかれたのかは忘れてしまったが、小さい頃に遊びに行った叔母のアパートは薄暗く、赤や黒を基調とした家具が並び、いかにも地方都市に暮らす若者が好みそうな、90年代の若干ヤンキーテイストを感じさせる雑貨で溢れていて雑然としている印象だった。ちょうど、今の自分が彼氏と暮らしている家と似ていたと思う。

叔母は僕を預かる機会があるとよくお菓子を与えていたそうで、そのせいで虫歯ができてしまうと母は叔母のことを良く思っていなかったようだ。そうした理由もあって、近所に住んでいる割にはそこまで親交もなかった。盆と正月か、小学校の運動会か何かのイベントごとがあるときにしか顔を合わせていなかった気がする。

その後、結婚した叔母夫妻は両親(僕の祖父母)の家に同居するようになり、子ども(従兄弟)も生まれた。従兄弟に付けられた名前が僕の名前の響きと似ていることが気に食わない母は、ますます叔母を嫌うようになった。
実家にいた頃は母の言い分にも分があるようにも思えていたけれど、母にも母で問題があったのだろうなとは今になって思う。

僕が大学生の頃は従兄弟も小学生だったので、夏休み期間に宿題を手伝ったり、勉強を教えたりしていた。そのときにお小遣いをくれたのを覚えている。
従兄弟のためにという名目でケーキを買って行ったこともあるが、叔母はそれに感動したようで、後日「あんなに小さかったのに、手土産にケーキを買ってくるくらいの気遣いができる子になったんだね」と自分のことを褒めていたと父づてに聞いた。



「叔母が亡くなったって」と、帰宅してから彼氏に話した。
「悲しい?」と聞き返されたので、「いや、長いこと会ってなかったから悲しいは悲しいけれど、実感はないというか……」と、自分でもうまくこの気持ちを言語化できずにお茶を濁した返事をした。
「従兄弟もまだ上が高校生で、下が小学生くらいだったと思うから、あの子たちの気持ちを想像すると辛いよね」と話すと、彼氏は「父子家庭だと上の子が大変だよね。母親の代わりもしなきゃいけなくなるから」と、父子家庭で育った友人の例をあげて話してくれた。

特に彼氏に話したからといって気持ちが変わるわけでもないが、こうして文章に残すことで何かしらの整理にはなるだろうか、と思いキーボードを叩いてみるものの、なんとなく心に残るこの「もやもや」は一向に消えない。
自分が今もまだ家族と仲良くやっていて、通夜や葬式に参列できて、悲しむ従兄弟たちの顔を見たり声をかけてあげられれば何かが変わっていたのだろうか。いや、おそらく何も変わらないと思うけれど。



ゲイだからなのか、たまたま自分の周りに自死を選ぶ人が多かったからなのか、ひょっとしたら人の死に慣れすぎたのかもしれない。
多少の揺らぎはあれど、驚くくらいフラットな感情の自分がなんだか人としての根源的な部分をごっそりそぎ落としてきてしまったかのように感じられて、気味が悪い。
文章を書いて無理やり感傷的になろうと試みている自分を俯瞰して、気味が悪い。
かと言って己の感情に向き合ってみたところで、出てくる言葉は「現実味がない」「悲しいは悲しいけれど……」という歯切れの悪いものばかりで、それも気味が悪い。

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by innocentl | 2018-05-08 12:11 | 日常 | Trackback | Comments(0)
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