彼の、タクシーを止める仕草が好きだった。
遠くに見えるタクシーを「おーい」と止めるような不躾な仕草ではなく、適切な距離から適切な角度で手を上げ、適切な位置にタクシーが止まる。
映画のように、彼の仕草は洗練されており、街の雰囲気にもはまっていた。
何度か彼の真似をしてタクシーを止めたことがあるが、毎回うまくいかなかった。
たいていは無視されてしまった。
タイミングが合わないのだ。
今のところ彼の真似が上手くなったと感じるのは、カードで支払いをするときの一連の仕草くらいである。
気取るわけではなく、自然な感じで財布からカードを取り出し、「こんなものどうでも良い」といった態度だが、不躾でないよう、すっと店員の方へとカードを差し出す。
店員がそれを恭しく受け取り、サインを要求され、さらさらと下品にならない程度に流し書きでサインを書く。
そうしてカードと領収書を受け取り、その場を去る。
この仕草が板につくまで、もう少しはかかるだろう。
もう朧げなイメージしかないが、ぼんやり思い出しながら真似をし続ける。