ダブルワークの話

本業一本で何とか食べていけるくらいは稼げるようになったので、ダブルワークで働いていたラブホテルのアルバイトを辞めた。
基本的に受付に一人で座ってたまに来る客から金を受け取り鍵を渡すという仕事だったが、他の時間は暇だったのでPCをいじってネットを見てたり、ライティングの仕事を片付けたりしていた。
部屋が満室になり、新しく客の相手をする必要がなくなれば緊急連絡用の携帯電話を持って外出をしてもよかった。
休憩客が予定よりだいぶ早く帰宅するということでなければ呼び戻しがかかることもなかったため、気分転換に近所を散歩したり、パチンコ屋へ入ったり、食事に出かけたり、本屋で過ごしたりしていた。

場所柄、ホテルの周りには風俗店も多かった。
詳しく知らないので何とも言えないが、ソープというよりはメンズエステや性感マッサージなどのライトな風俗が多かったので、もしかしたら条例のようなもので出店が規制されていたのかもしれない。

ホテルの裏の喫煙所は休憩中や出勤前の風俗嬢たちが集まっていて、けっこうにぎやかに話している様子だった。
ホテルのゴミ捨て場が近くだったので、自分もよくその喫煙所を横切るような形で歩いていた。

何人か話し相手になってくれる風俗嬢もいた。
一番最初に話したのは19歳だか20歳の子で、自分が落としたスマホを拾ってくれたのをきっかけに少し会話をし、彼女の吸っていたタバコがちょうどパチンコ屋の景品でもらったものと一緒だったので「パチンコ屋でもらったけど吸わないからあげる」と言って渡したのが馴れ初めだった。
(彼氏に渡そうと思ってハンパな端玉をタバコに変えていた)

性感マッサージの店で働いていて、通信制の高校に通っている女の子だった。
現代文と古文が得意で、ゆくゆくは大学に行きたいと話していた。
その子の働いている店は出張サービスも行っているようで、たまにうちのホテルに客らしき男と一緒に入っていくのを監視カメラから見ていたこともあった。
母子家庭で、母親が定職に就かず、仕事をすぐにやめてしまうのが悩みだと話していた。
風俗で働いている子は派手で金遣いが荒いというイメージがあったが、むしろ彼女に関しては逆で、いつもユニクロやGUで買ったような「Tシャツにジーンズ」みたいな服を着ていた。
店では下着姿で接客をするのでいい服を着てくる必要はないそうだ。
本番を伴わない(と、いうことになっている)お店で働く彼女たちは、そもそもの価格設定が安く、ソープやデリヘルで働く女の子たちに比べて手取りが少ないようで、「服とかに使うよりまずはご飯と学費かな」と話していた。

結構早い段階で、「彼氏がいる」と暗にセクシャリティを公表して話したが、性に対してはあけすけな彼女たちだったので「ふーん」という反応だった。

その子経由で何人か話す人もできた。
その子と仲が良く、よく泊まりにも行くという32、3歳の人とも良く話した。
彼女は昼間はエステティシャンとして働き、空いた時間にメンズエステで働いているという。
ゆくゆくは自分のサロンを持ちたいと語っていた。
その人もあまり服装が華美でなく、どちらかと言えばオーバーサイズ気味な少し野暮ったい恰好をしていた。
高校を卒業してから工場で働いていたが、一度地元に帰り、また東京に出てきてエステの仕事とこの仕事を始めたという。

2人は自分がホテルの仕事を辞めると話したとき、「終わり22時でしょ。待ってるから金の蔵で飲もうよ」と誘ってくれた。
彼女たちと食事をするのは初めてではなかった。
たまに終わりの時間がかぶっていたらファミレスに行ったりもしたし、喫煙所でコンビニ飯を平らげることもあった。

彼女たちのことはお店で呼ばれている名前と、自分で話してくれた身の上話でしか知らないが、毎日を必死に生きている彼女たちに自分の姿を重ね合わせて救われたこともあった。
自分も生きるのに必死だった。
親と決別して彼氏の家に転がり込んだはいいものの、日々の支払いに追われ、迷惑をかけたくない気持ちから食事を1日に1食しかとれない時期も2ヶ月ほどあった。
僕の「記事が売れなかった」「取材したのにボツになった」「なかなか食べていけるくらいまで稼げるくらい仕事が入ってこない」といった、しょうもない愚痴も彼女たちは聞いてくれた。

居酒屋に到着するとすでに2人は2杯ほど飲んでいて、「あー、きたー」と手招きしてくれた。
「本業が忙しくなったなんていいことじゃん」と激励してくれ、ビールを一緒に飲んだ。
およそ10ヶ月ほどの友情だったが、少しほろりとさせられるものがあった。

本名すら知らないのだからお互いにある程度のラインでは線引きした関係なのだが、少し感傷的になってしまった。
最後に駅で別れるとき、「じゃあ、また」と、いつも別れるときに使っていた言葉でお別れをした。
元気で暮らしていてほしい。

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by innocentl | 2016-08-30 18:31 | 日常 | Trackback | Comments(0)
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