眩しい


暇だったのでツイッターを見ていたら、年下のフォロワーが「誰か新宿で飯行こう」とつぶやいていた。
別段その彼と親しいわけではなく、友人の友人的な立ち位置である。
カフェで偶然会った友人の隣に座っていた彼に、一回だけ挨拶をしたくらいの関係だ。
つまり、ほぼ今回が初対面ということになる。

その日僕は暇でとりあえず外に出てはみたものの、ゲリラ豪雨で渋谷駅が浸水しているとか何かで、副都心線車内で足止めを食らっていた。
電車は動かなくて暇だし、蒸し暑いし、腹も減ったし…と、色々とぼんやり考え事をしていたら、脊髄反射的に彼のツイートにリプライをしていた。
別に食事じゃなくてクラブの誘いでも良かったし、相手も誰でもよかった。
なんだか誰でもいいから会いたい、そんな気分だった。

新宿三丁目付近のコンビニで彼を待たせていたのだが、彼を見つけたときに思ったのは「意外と背が高いな」ということであった。
カフェで会ったときは座っていたし、彼の背格好がどのようなものだったかよくわからなかった。
衝動的に誘いに乗って来ただけであるし、彼のことを詳しく知らなかったので、「そういえば年下だったよな」とか「ああ、学生だったっけ」とか、会話の端々から断片的に彼の情報を頭の引き出しから探りつつ、適当に見つけたメキシカンバルへ入った。

「あんまり高い店じゃないですよね」という彼の言葉がおかしくて少し吹き出しそうになってしまったが、同時に自分もあんな時期があったなぁとハッとさせられた。
社会人になってから、僕は食事をする店を適当に選ぶようになった。
一流ホテルや一流のビストロじゃなければ、一回の食事にかかる金額なんてタカが知れているし、「なんとなく良さそう」という理由でふらっと入った店で食事をするということが増えた。

学生の頃は、かなり入念にリサーチをしてから店を選んでいたよな、と思った。
社会人がふらっと「お、ここ良さそう」と言って、食事をする店を選ぶ姿が不思議でたまらなかった。
「値段の割にまずかったらどうするんだ」「高かったらどうするんだ」と、他人事ながら心配になっていた。
でも、自分が社会人になってから、ようやく彼らの行動の意味を理解することができた。
意味を理解する、というよりは、食事する店を選ぶという行動に大それた意味なんてなかったのだと理解することができたのだ。

メニューには載っていなかったが、メキシカンバルなんだから当然カイピリーニャくらい用意しているだろうと思い、僕はバーテンダーに「カイピリーニャって、できますか」と尋ねた。
「できますよ」と彼女はいい、カシャッサを棚から取り出し、ライムを手際よく切り始めた。
「じゃあ、ダブルでお願いします。ダブルというか、グラスなみなみに作ってください」と言うと、バーテンダーは「お好きなんですね。テキーラでカイピリーニャも作れますから、よかったらそちらもいかがですか?」と勧めてきた。

一緒に行った彼はジントニックを頼んでいた。
僕はジンが苦手なので、専らウォッカトニックしか飲めないが、ジンが好きだという彼を少しだけ羨ましく思った。

そんなに腹が減っていなかったのだが、チーズや生ハムや牛肉の赤ワイン煮込み、バゲットが美味しくて、ついつい頼み過ぎてしまった。
食事をしつつ、僕は彼の身の上話を聞いていた。
今大学で学んでいることや、自分自身に関すること、就職に関することなどを語っていたと思う。
ついこの間まで僕も大学生だったのに、僕はだいぶ変わってしまったんだな、と実感をした。
もし仮に大学時代に彼と会っていたら、意気投合していただろう。
彼はそういうタイプの考え方をする人間だった。

しかし、短い間ではあるが社会人経験をすると、彼の語る言葉もすべてどこか俯瞰的に捉えてしまって、何か僕が発言しようと思うたびに「こんなんじゃ説教染みたように聞こえるよな」と、理性が発言にストップをかけた。
結果、彼の言葉を全て肯定的に称えるような、つまらない返事しかできなかった。

世の中の主流を嫌い、若く、どこか攻撃的で尖っている彼は、昔の自分とダブって見えるところがあった。
学生時代に彼と会っていれば「それ、めっちゃわかる!」といったような関わり方をすることができただろう。

社会に出て、僕はいろいろ変わってしまった。
熱く語る彼を俯瞰的に捉え、それに正面から向き合うことをしないで、耳触りのいい言葉で肯定するという、いわば「大人の対応」を身に着けてしまったんだなと思った。

誤解されたくないのだが、彼は立派な男である。
しっかりと研究にも打ち込み、バイトにも精を出し、一生懸命な男だ。
ただ、自分が彼の持つそうした眩しさのようなものを直視できなくなってきているというか、目を逸らそうとしているというだけの話だ。

「学生からは金取れないよ。クラブ行くんでしょ?行っといで。ここは出すから」と言うと、彼は礼儀正しくお礼を言って店を出ていった。
一人になった後、またカイピリーニャを頼み、気が付けばダブルのカイピリーニャを5杯も飲んでいた。

会計を済ませた後、年上の友人を無理やり誘い、僕もクラブへ行った。
年下とか、年上とか、あまり気にしないつもりで生きてきたのに、人は変わってしまうんだなと思った。
クラブは相変わらず人が多かったが、今回はそんなに好きな曲が流れなかったので、ずっと壁に寄りかかって友人と話したり、タバコを吸ったり、バーカウンターにいた適当な男の人と適当な会話を楽しんだりしていた。

終電前には帰ったが、飲み過ぎたために渋谷で途中下車し、嘔吐した。
学生の頃は嘔吐しないようにセーブし、ビクビク飲んでいたが、社会人になってから逆にセーブしないようになってしまった。
吐くのが得意になったからだとも思う。

吐かないように飲むってのもおかしい話だ。
吐けばまた飲めるんだから、いいじゃないか。

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by innocentl | 2015-07-26 10:45 | 日常 | Trackback | Comments(2)
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Commented by 夏男 at 2015-07-27 01:16 x
カイビリーニャってなんだ?
…と思ったらお酒だったんですね。

僕も大学生でファミレスでバイトしてるのですが…
バイトのある日は1食1,000円以下の商品が345円で食べられるので助かります。
バイトのない日は夜ご飯に食パンだけという日もありましたが…(笑)

僕も社会人になったらいっぱいお金を稼いで美味しい物をいっぱい食べられるようになれたらと思います。
それまではガマンガマン…(笑)
Commented by innocentl at 2015-07-30 20:47
夏男さん

カイピリーニャは軽い飲み口なのにしっかり酔えるからおすすめです。
夏にぴったりです。

年相応の楽しみ方っていうのがあると思うので、今の自分の生活を大事にしつつ、頑張ってくださいね。


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