ドクター

「もしかして、医療系の仕事してる?」

そう聞いたのは、看護師をやっている友人たちと同じ雰囲気を彼から感じたからだ。
こう、医療系特有の賢さと柔らかさを兼ね備えているというか、ふにゃっとだらしがなくも見えるけれども、それは表面上のもので、中身はしっかりとしているというか。
おそらく彼らにその意識があるかどうかは不明だが、医療系という肩書のとっつきにくさを解消する如く、計算されたうえでの柔和な親しみやすさのようなものを感じるのだ。

「当たり。なんでわかったの?」
「なんか、看護師やってる友達と似てたから」
「そっか。看護師か。医療系なのは当たってるけど、看護師じゃないよ」

突然彼はクイズを始めた。
別に彼が何の仕事をしていようが僕には関係ないが、時間もあったし暇だったので彼のクイズに付き合った。
レントゲン技師、理学療法士、作業療法士、言語聴覚士、介護士、薬剤師、電子カルテエンジニア、ソーシャルワーカー、歯科衛生士、義足を作ったりする人、歯型をとったりする人……と、思いつく限りの医療系の仕事をあげていったが、どれも返事は「ブー」だった。

「えー、思いつかない。他に医療系の仕事ってある?」と、僕が諦めて聞くと、彼は「まあ、フツーに医者だけどね」と答えた。
「フツー」に医者、って。
医療系の仕事と言われて、最初に医師を出さない自分も自分だが、まさかフツーに医者とは思うまい。

「じゃあ小児科だ」と僕が言うと、「ピンポン」と返してきた。

「システムエンジニアやってます」と言われても、「営業の仕事やってます」と言われても、「保育士やってます」と言われても、どの職業を言われたとしても納得できる彼の風貌から、彼が医者だとは気付かなかった。
見た目が普通すぎるのだが、この彼も病院の中に白衣を着せて立たせれば「ああ、やっぱり先生だったんだなぁ」と思えるようになるだろうか。
そう思いながら、彼が白衣を着て診察をしている風景を想像してみたけれど、目の前でもさもさとファミレスの定食を食べている彼を見ていると、なかなかその風景を頭の中で思い描くことが難しかった。

酒の席だったし、嘘をつかれているのかもしれないが、仕事の内容を淡々と語る彼の口調にはなぜか信憑性があり、別に疑ったところで僕には損にも得にもならないので、とりあえず彼が医者だということを信じてみた。
「せんせい」か。


彼とはクラブで会った。
本当になんとなく流れで盛り上がり、なんとなく帰る時間も一緒だったし、帰る方面も一緒だったので、終電で横浜まで帰ってきた。
そのあと、24時間経営のファミレスで食事をとっているときにした会話が上のものだ。

見た目じゃわからないな、と改めて思った。
そんな彼も、僕の職業を知ったら少し驚いた顔をしていたけれども、嘘をついて「芥川賞受賞作家です」とでも言えばよかっただろうか。

ファミレスで中途半端な時間の食事を終えると、彼はタクシーに乗って帰っていった。
名前も教えてもらっていないし、連絡先も交換していないし、おそらく二度と会うことはないだろう。

しかし、彼が医者か。
人は見かけによらないな。

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by innocentl | 2015-07-16 20:54 | 日常 | Trackback | Comments(0)
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