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好きだった人の住んでいた街

仕事で、昔好きだった人の住んでいた街へ行った。
昔と言っても数年前の話であるので、当たり前ではあるが、街は変わらず高層マンションが立ち並び、相変わらずどこか殺風景な雰囲気であった。

この街を歩くときはいつも緊張する。
昔から人が住んでおり、人が生活をし、その結果として発展してきた街は、体温を感じることができる。
街に血が通っているかのように感じられるのだ。
葛飾や足立のような下町を歩いているときは、歩くエネルギーを街の地面からもらっているかのように感じる。

しかし、この街のように、まず最初に「開発計画」を基に海を埋め立て、まるで定規で引っ張ったかのような直線の道路を造り、碁盤の目のような区画にレゴブロックを差し込むように高層マンションを建ててきた街というのは、どうも人工的過ぎて恐ろしいのだ。
街を歩くときに足の裏から脳に伝わる信号が、やんわりと僕に「ここにいるべきではない」と警告をしているように感じられる。

この街を歩くとき、足の裏は氷のように冷たい。
仕事を終えて地下鉄のホームに降り立った時にようやく、氷のような足裏に体温が戻る。
地下鉄の座席に座って、ようやくほっとする。


思えば彼といる時も、安心をしたことなど一度もなかった。
別に付き合っているわけではなかったので、こんな感情を抱くことすらおこがましいのだが、彼といる時はいつも不安だった。

好きだ、と言ってくれた。
一緒にどこかに旅行に行こう、と言ってくれた。
一つ一つの台詞は、当時の僕にとって小躍りするくらい嬉しいものであった。
彼の言う約束ごとがすべて実現すればいいのに、と思っていた。

しかし、矛盾するようであるが、安心感を持って彼の台詞を受け止めたことはなかった。
現に付き合う、付き合わないのすったもんだが発生する以前に「彼氏ができた」と言われ振られてしまったのであるが、こういう結果を想定して心にブレーキをかけていたのかもしれない。
その結果、僕は彼といる時はいつも不安な気持ちを抱えたままであったのかもしれない。


彼は今何をしているだろうか。
この街には彼はもういない。
彼がいたからこそ足を運んだこの街も、彼がいなければただの大きな空箱である。

嘘みたいに人工的な街に、僕のなりたい理想を兼ね備えた彼がいた。
全部、嘘だったのかもしれない。
僕の願望が作り出した、プロジェクションマッピングのようなものであったのかもしれない。

今では彼もいないので、願望のプロジェクションマッピング上映も終わってしまった。
この街は空っぽである。


東京に一つ、上映終了マークの付いた街が増えた。
by innocentl | 2015-04-15 00:43 | 恋愛 | Trackback | Comments(0)


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