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ドラム式洗濯乾燥機を買った

2月の頭に、ドラム式洗濯乾燥機を買った。

自分にしてはかなり高価な部類の買い物だったので、2週間くらい使ってみた感想やレビューのようなものを書き記しておこうと思う。

【買おうと思ったきっかけ】

パートナーと2人暮らしをしているが、家事はほぼ自分の担当である。

パートナーは会社勤め、自分は完全リモートワークのため、自然と「家にいるほうが家事をやる」役割分担になっている。それ自体は特に問題視していない。

掃除に関してはロボット掃除機も使っているし、そもそも掃除は嫌いな方ではないため、仕事の合間や連絡待ちの時間などに気分転換としてやれている。忙しくて掃除ができていなかったとしてもパートナーに文句を言われることもないので、そこにストレスはない。料理に関しては生活時間帯が違うため、うちはそもそも同じ食事を同じ食卓で食べるスタイルではない。各々が好きなタイミングで好きに食事を取っているので、これもノーストレスだ。

洗濯についても別に作業自体がそこまで大変だったわけではないのだが、家で使っていた縦型洗濯機の最大容量が5kgまでだった。パートナーはいわゆる「仕事着」があるタイプの仕事なので、毎日それなりの量の洗濯物が出る。2人分の洗濯物をこなすとなると最大容量5kgタイプでは毎日2回洗濯機を回す必要があり、数日分溜めてしまったときは3回に分けて洗う必要がある。そうすると自分は平日「朝起きて洗濯機を回して、PCに向かって仕事をして、洗濯物を干してからまた洗濯機を回して、PCに向かって仕事して、また洗濯物を干して…」と、いちいち仕事の手を止めなければならなくなり、常に頭のどこかで「容量がもっと大きい洗濯機がほしいな~」と思っていた。

そんな風に思いながら過ごしていたところ、ふと今の洗濯機をもう8年使っていることに気づいた。前のアパートに住んでいた頃は洗濯機を外置きしなければならなかったので、雨ざらし&太陽光の影響で見た目はボロボロだし、稼働音もガタガタと大きくなってきて不穏だし、「どうせ容量が大きい洗濯機に買い替えるのなら、いっそドラム式洗濯乾燥機がいいんじゃないか?」と思ったので、思い切って今回購入に踏み切った。

※購入したのはTOSHIBAのドラム式洗濯乾燥機「ZABOON」(洗濯容量12kg/乾燥容量7kg)のミドルスペックタイプ。フラッグシップモデル・ミドルスペックモデル・エントリーモデルの3種類があり、機能的にはエントリーモデルで十分だったのだが、エントリーモデルは扉が左開きのみのため、(うちの間取り的に快適に使える)右開きのオプションが選べるミドルスペックモデルを購入した。

【感想】

確実に買ってよかったと思う。とはいえ、メリット・デメリット(メリットの方が圧倒的に多い)もあると思うので、箇条書きで書いていこうと思う。

【メリット】

・洗濯機を回す回数が減った

単に容量が大きな洗濯機を買ったので「ドラム式洗濯乾燥機だから」というメリットではないが、今まで2~3回に分けて洗濯する必要があったところを、1回の洗濯で済むようになったのは非常に楽。

・水道代の節約になる

今までの洗濯機は1回の洗濯で140~150Lの水を使用していた。1日に2回洗濯するので、毎日300Lほどの水を使用していたことになる。ドラム式洗濯乾燥機は使用する水が少なく、1回の洗濯に使う水の量は多いときで90Lほど。洗濯回数が1回に減ったため、1日分の洗濯につき、水の使用量が3分の1程度に減ったのは家計的に助かる。

・洗濯物を干さなくていい

一度洗濯物を洗濯機に入れてスイッチを押してしまえば、乾かすところまで自動でやってくれるのは楽。特に靴下や下着など、ピンチハンガーにかけなければいけない細々としたものを干す作業から解放されたのは嬉しい。

・洗剤と柔軟剤の自動投入機能が助かる

洗剤・柔軟剤の自動投入機能がついているので、洗濯の際にいちいちカップで計量しなくて済むのが楽。うっかり柔軟剤を入れ忘れて回してしまったといったミスも防げる。洗剤の種類にもよるが、だいたい月に1回ほど継ぎ足せばOK。ただし粉洗剤は自動投入に対応していないので注意。

・洗浄力が上がった

パートナーの仕事着を洗う関係上、今発売されているすべてのメーカーのなかで、洗浄力が一番強いと評されているものを選んだ。実際、「なかなか取れないな~」と半ば諦めていたシミや黄ばみ類もマシになった気がする。

・タオル類がふわっと仕上がるようになった

外干ししていたので、フェイスタオルやバスタオルはぶっちゃけガビガビに固くなっていた。「まあこんなもんかな」と思い使っていたが、乾燥機にかけたところ、買ったばかりのようなふわふわ加減に復活した。水をよく吸うようになったし、使い心地がいい。

・毛布や掛け布団を洗える

毛布や掛け布団も家で洗濯・乾燥ができるようになったのは助かる。今までは近所のコインランドリーまで持って行く必要があった(徒歩数分とはいえ、デカい毛布を持ち歩くのは負担)ので、そんなに頻繁には洗濯できなかったが、気軽に洗えるようになったのは嬉しい。コインランドリーなら洗濯に300円、乾燥に100~200円程度かかっていたところ、水道代・電気代(+持ち運び時間ゼロ)で洗えるのは助かる。

・天候を気にせずに洗濯できる

今の家には浴室乾燥がついているので、雨が続くときには使っていたが、電気代が高いのがネックだった。浴室乾燥を使う際にも「洗濯物をハンガーに吊るして物干し竿にかける」という行為は必要なので、それから解放されたのは利点。浴室はせいぜい10着くらいしか服を乾燥させるスペースがないが、(うちの洗濯量なら)ドラム式洗濯乾燥機は1回で全ての洗濯物を乾燥させられる。

【デメリット】

・高い

身もふたもない話だが、乾燥機のついていない縦型洗濯機が3~5万円程度で売っているのに、「乾燥機をつける」ことで20~30万程度に価格が跳ね上がるのは、正直高い。洗濯物を干す手間を省くためだけに、機械に20万も払う必要ある? という方もいると思うので、そこは個人の価値観だと思う。

・デカい

縦型洗濯機よりも圧倒的にデカいので、設置や搬入に制限がある。防水パンのサイズや水栓の位置が設置に適しているかなどを事前にチェックする必要があるし、脱衣所が狭かったらかなり圧迫感があると思う。さらに設置場所自体には問題がなかったとしても、玄関ドアや廊下の幅が足りずに搬入できない…というケースも少なくないそうなので、ここも要注意。

・電気代がかかる

洗濯に今まで使っていなかった「乾燥」という工程が入るので、電気代は上がる。しかし前述のように(うちの場合は)水道代が下がるので、光熱費全体で考えれば、乾燥を使うことによって増えた電気代と相殺(もしくはやや下がる?)される感じかなと思う。

※1回の洗濯につき乾燥は20~40円程度の電気代がかかり、水道代は20~40円程度節約できる想定。省エネモードを使用すれば乾燥時間は長くなるものの、電気代が半額程度に抑えられるとのことだが、検証したわけではないので未知数。

・洗濯~乾燥は時間がかかる/洗濯完了時間が読めない

洗濯をスタートするときに乾燥が終わるまでのだいたいの時間が表示されるのだが、「洗濯~乾燥」に3~5時間くらいかかる。カタログスペックでは96分で乾燥まで完了すると書かれていたが、「お急ぎモード」で乾燥をかけたとしても3時間は切らないので嘘だと思う。さらにうちは「省エネモード」で乾燥をかけているので、「お急ぎモード」の乾燥よりも1時間程度長く待たなければならない。

さらにこの表示される「洗濯~乾燥完了までの時間」はあくまでスタート時の概算でしかなく、洗濯や乾燥途中に再計算して延びたり縮まったりする。「乾燥、あと1時間くらいで終わるのかぁ~」と思っていたら次の瞬間に2時間に延びたり、「あと4時間もかかるなら出かけるか」と思っていたら2時間程度で完了してしまったりと、なかなか洗濯が終わる時間が読めない。とはいえ外干しするときも、その日の天候や気温によって乾くまでの時間が読めないので、デメリットというほどではないのだが…。あまり洗濯機の中に洗濯物を放置しておきたくないので、少しだけ気になる。

・モノによってはシワになる

シワを少なく乾燥させる「おしゃれ着モード」があるのでそれを使えばいいし、そもそもおしゃれ着などは洗濯だけして乾燥をかけずに自分で干すというやり方もできるので、そこまでデメリットだと感じているわけではないのだが、服の素材によってはシワになる。ドラム式洗濯乾燥機を導入することによって毎回アイロンがけが必要になったら本末転倒だと思うので、ワイシャツやブラウスなどをよく着る人は、購入前にシワになりにくい乾燥方法の機種なのかなどを確認した方がいいと思う。


以上がドラム式洗濯乾燥機を買った感想とメリット・デメリットだ。トータルでは確実に買ってよかったと思っているので、これからも大事に使い続けようと思う。

# by innocentl | 2024-02-13 18:57 | 日常 | Trackback | Comments(0)

ゴーストワールド

ゴーストワールドのリバイバル上映に行ってきた。

これまでの人生においてたびたびポスターやイメージショットなどは目に入っていたが、タイミングに恵まれずに今まで観ることのできなかった映画だった。中二病っぽい女の子たちが主人公の低体温系青春ムービーということまでは聞いたことがあったが、ほとんど前提知識がないままスクリーンで観賞することになり、結果見事に食らってしまった。こんな映画が2001年に公開されていたなんて…! 自分はこんな名作を知らなかったのか…! という気持ちだ。

10代の頃に観ておきたかったなという気持ちと、いや10代の頃に観ていたら確実に悪い意味で影響されていそうだから今観ることができたのが正解だという両方の気持ちがある。100万人くらいが同じことを言っていると思うが、高校生くらいまで、自分はまさにイーニドそのもののメンタリティだった。

映画自体は20年も前に公開されていて散々感想や考察などは擦られているだろうが、他人の感想などを読んで影響を受ける前に、やはり自分のラストシーンの解釈を書き記しておきたい。

「廃線になったはずのバスがなぜかバス停にやってきて、イーニドはそれに乗って街を出る」というラストシーン。最初、自分はそのまま受け取って「ああ、イーニドもこんなしがらみだらけの地元を捨てて、新しい街へと抜け出す生活を選んだんだな」と解釈した。なぜなら自分がそうだったから。仕事もない、親との関係も最悪…という状況で、イーニドのように八方塞がりになってしまったとき、自分は「全てを捨てる」という選択をした。地元や家族をかなぐり捨てて、文字通りカバン一つだけを持って家を飛び出して生活を始めた。自分が作中のイーニドだったとしたら間違いなくあの後に家を飛び出して、家族やレベッカとは金輪際連絡を取らないつもりで、別人になったつもりで新生活を始めてやろうと思うはずだからだ。

しかし一拍置いて考えると、そもそもあのバスは「廃線になっていた」わけで、バス停で待っていても永遠にバスはやってこない。暗闇に向けて進むバスを「自死」のメタファーだと解釈して「世間とうまくやっていけないイーニドは自殺しました」エンドだと解釈している人や、「あれはイーニドの心象風景。モラトリアムの終わりを悟って自分を殺して、社会に迎合して生きていこうと決めた彼女の覚悟や諦めの気持ちを描いている」と解釈している人もいた。

明確に正解があるわけではないので「自死という解釈以外ありえない!」などと決めつけられるわけではなく、解釈は観客側に委ねられているのだと思う。色々な人の様々な考察を見て「なるほど」と感じたことはあるし、「そもそも廃線になっているバスなのだから、あのラストシーンは現実という描かれ方はしていない」というロジックも理解できるのだが、なんとなく、イーニドのような青春時代を過ごした自分にはしっくりとこない。「いや自分と同じように、きっと全てを投げ出して、少しだけ周りと折り合いをつけることを学んで、人知れず生きてるよな」と思いたい。意地悪でダサくて自意識過剰で、そのくせ世界にちょっとだけ期待していて、それを悟られないように必死で虚勢を張って生きてるイーニドが、あっさり死ぬわけがない…と思いたい。映画作りのロジックとしては「自死」か「モラトリアムの終わり」という解釈が“正解”なのかもしれないが、一挙手一投足がまさに過去の自分とダブるダサダサのイーニドには、ダサいなりにタフに生きててほしい…という、祈りにも似た気持ちを抱いてしまった。それだけイーニドという人物に惹かれてしまったのだと思う。様々な考察を読んでもなお、イーニドは文字通りバスに乗って別の街へ行ったという解釈をしておきたい…(そうであってほしい)と、ここに記しておく。

# by innocentl | 2023-11-24 22:16 | 日常 | Trackback | Comments(0)

今年に入って思ったこと

結局のところ、差別主義者の一家に生まれたマイノリティの属性を持つ自分は、群れを追われるしかなかったのだろう。勉強ができて、そこそこいい大学に進学し、そこそこいい企業に入ったことで「できた息子」という属性を手に入れれば両親からも愛されるかと思ったが、身体を壊し退職したことで一気に「精神疾患の穀潰し」に評価が変わり、金の無心や嫌がらせを受けることになった。毒親界隈の言葉を借りれば、典型的な「条件付きの愛」というやつだ。

妹の夫はとあるダンスサークルに所属しているのだが、そこにはオープンリーゲイの男性がいるらしい。彼は「男同士だから別にいいじゃん」と、妹の夫と2人きりで外出したり、おふざけでややセクハラ染みた行為をしたりするらしく、妹はそれを快く思っていない。「だからゲイは嫌なんだ」「ゲイは性的異常者だ」というようなことをよく述べていた。

自分も同性愛者であるということは知ったうえでそのような発言をするのである。妹はあまり頭が良くないので、同性愛者という属性に「性的異常者」というレッテルを貼って侮蔑することが、目の前にいる兄を差別することだと頭の中で紐づいていないのだろう。差別をしている意識がないのだ。それと同時に私も「自分の夫がゲイの男性からおふざけでセクハラされている。2人きりで出かけることもある」という妹の不快感も理解できるため(相手がヘテロセクシュアルの女性だったとしても嫌だろう)、「それは夫とも話し合ったほうがいいよ」のような返答をしていたのだが、刃物で身体をぐさぐさ刺されているのに「痛い」と言えず、「あなたは悪くないよ」と返し続けなければいけないことに疲弊していた。傷ついていたのに、それを表明できなかったことがしこりになった。

自分はずっと傷ついていたのだと、最近になって自覚した。

最近のTwitterは、LGBTQに向けた露骨な差別発言がかなり多く、見ていると疲弊する。すり減る。目がかすむ。トレンドから離れる勇気も必要かもしれない。



また書籍の仕事を担当することができた。

年末から年始にかけてはリサーチで忙しく、3が日はかろうじて休めたものの、大みそかまで仕事が収まらなかった。実働時間としては正味そこまで多くないのだが、こだわってしまう性質なのでリサーチやら校正やらに時間をかけてしまい、およそ3週間ほどかけて書籍用の原稿10ページを仕上げた。

毎回書籍の仕事をするたびに「大変だし、もうやりたくないな……」と思うのだが、デザイナーが綺麗に文字を組んだり、挿絵を入れたりして調整してくれたフィジカルの書籍が手元に届くと「やってよかったなぁ」と、すっかり喉元過ぎれば熱さを忘れるというやつで浮かれてしまう。

そうした舞い上がった気持ちがまだ残っていたのだろう。ひょんなことから先日友人らと飲み屋で話しているときに、春に自分が携わった新しい本が発売になるという話になり、「〇日に発売だから、よかったら読んでみてね」という話をし始めた。社交辞令でどういうテーマなのかを聞かれたときに「今回はこういうテーマで、こういうインタビューをして……。例えばこういう問題があるんだけど、実は日本ってこの問題に対して、世間からの評価とは違って……」などと、ついつい話しすぎてしまった。「あっ、やばい」と気づいたときには、友人たちの顔にはあからさまに興味を失っているもののそれを表に出さないだけの優しさと社会性を持つ人特有の微笑や、そこに若干の戸惑いのエッセンスの混じった表情が浮かんでおり、「ああ、話しすぎた」と突然顔から火が出るほど恥ずかしくなってしまった。「ってな感じだから、よかったら立ち読みでもして!」と、バツンと独擅場を切り上げて会話のボールを周囲にパスをした。

自分は仕事が好きなんだと思う。昔書いた記事はたまに見返して「あの頃、こんなこと書いている」と思ったり、「今だったらこういう表現をするだろうに」と反省したり、過去の自分と向き合う時間も、わりと好きだ。でも世の中、当然だがそんなに人の仕事に興味がある人たちばかりではない。趣味を仕事にしてしまったばかりに、仕事や成果物に対しての愛着が、おそらく一般的なオフィスワーカーよりは高いのだと思う。そして「好きでやってる人たちだらけ」の業界であるがゆえに、周囲にあまり労働嫌いをあからさまに出す人がおらず、それもこの傾向に拍車をかけている。

自分は社会性のない人を見ると苦々しく思ってしまう性質なので、今回のこれは本当に恥ずかしく、今後しないようにしなければと肝に銘じた。自分の作品を愛でるのは、自分だけでいい。さほど興味のない人たちに無理に自分の仕事を「見て見て!」と押し付けないようにしなければならない。成果物がリーチしたところからのフィードバックは受け入れればいいだけの話だ。

# by innocentl | 2023-03-06 16:19 | 日常 | Trackback | Comments(0)

願い

「今年、なにがあったっけ?」

友人と忘年会前に街を歩いていたときに、何気なくそんな会話をした。北京オリンピックがあった、ロシアがウクライナに侵攻し戦争が起こった、安倍が殺され国葬が強行された、自民党と統一教会が癒着していることが明るみになった、ワールドカップが行われた、コロナは終息しなかった。

台湾有事が起こりそうなこと、日本も戦争に巻き込まれる可能性がゼロではなくなりそうなこと、長引く戦争による原料高や物価高騰が続き生活がよくなる兆しはまあなさそうなこと。明るい話はほとんど出なかった。その後の忘年会でも「戦争になったら食べられなくなるんだから、これも食べな」なんて声を掛け合いながら、ジャンクなピザや揚げ物をほおばり、ワインを飲んだ。

自分は今年何をしてきただろうか。リモートワークも3年目で、相変わらず自宅で仕事をして平日は引きこもる日々だった。唯一変化があったといえば、書籍の仕事をしたため国会図書館サーチに自分の名前が登録され、著者検索ができるようになっていたことくらいだ。本名を検索すれば、パブリックに保管された自分の担当した書籍や記事のデータが見られるというのは、こうした仕事をする人間からすれば一歩前進かもしれない。

正直、戦争というものがここまで現実味を帯びてきた今、仕事を通じて成長だの次のステップがどうだのは考えられない。戦争が日本で起こったら、おそらく私は徴兵され、何らかの爆撃に遭って死ぬだろう。パートナーとも離れ離れになって、孤独に苦しんで死ぬだろう。

今はとにかく、日本が戦渦に巻き込まれることがないように、私とパートナーとの穏やかな暮らしが今後もずっと続いていくように、それだけが願いだ。

# by innocentl | 2022-12-31 15:44 | 日常 | Trackback | Comments(0)

デクリネゾン

金原ひとみの新刊「デクリネゾン」を読んだ。

金原さんの本を読んだ後は「ああ、いいものを読んだなぁ」という充足感があるのだけれども、曲がりなりにも物を書く仕事をしているくせに、気の利いたレビューや感想などというものがアウトプットできない。金原さんの書く小説は明確な起承転結があったり、何か問題解決に向けて一本筋が通ったストーリーラインだったりするわけではないので、感想を書こうとしても難しい。

初期ならメンタル疾患や依存症、恋愛、死生観などの、震災以降の作品は人との「分かり合えなさ」や家族関係など、そして新しい作品はそこに「コロナ禍」や「分断」などのテーマが複雑に絡み合ったものとなっているため、「○○が○○して、よかった。面白かった」というシンプルな感想が書けない。おそらく金原さんの作品を読んで、シンプルな感想を述べられるのだとしたら、それは表層的な理解に留まっているか、まったく作品のテーマを理解できていないかのどちらかだと思う。

今回の作品も例にもれず、コロナ禍と分断、成長してゆく娘と年下の恋人の「理解できなさ」や、家族と離れて暮らす喪失感、離婚した夫たちに感じるある種の信頼と不信、仕事と自分の関係性、老いなどさまざまなテーマが含まれており、「コロナ禍の世の中」と「作中に登場する食事」が全体をまとめ上げるドレッシングのような役割を果たしていた。

コロナ禍第一弾の短編集「アンソーシャルディスタンス」は、破滅的な人々が泥沼に嵌っていく様がこれでもかというくらいに冷淡に、冷酷に描かれていた。続いて出された「ミーツ・ザ・ワールド」は一転して、「金原さんって、こんなポジティブで力強い作品を描けるんだ!」と驚くくらい明るく希望に満ちた作品だった。

今回の「デクリネゾン」はその中間くらい、いつもの金原さんここにありといった感じの内容だった。主人公の志絵は小説家。バツ2のため中学生の娘・理子と2人で暮らしており、大学生の彼氏がいる。離婚した2人の夫や、結婚までには至らなかったものの交際していた元カレ、同じ小説家の飲み友達や仕事関係の人たちなど、さまざまな人との関わりを通じて志絵という人間の枠組みがじっくりと描かれていく。

金原さんの作品の主人公にはどこかシンパシーを感じて好感を持つことが多いが、志絵は少し引いた目で眺めてしまうところがあった。読み進めていくうちに同情心とも好感とも言えるような気持ちは芽生えてきたものの、「どうしてこの人はこんなに不器用な生き方をするんだろう」という気持ちはどこかしらにありつつ……という感じだった。

金原さんの作品は新刊が出たばかりの頃に読んでもぼんやりとしか理解できず、数年経って自分がその作品の主人公と年齢が近くなったら急に「!!」とすっと頭に入ってくることもあるので、あと5年、10年経って読み返せばまた印象も違うのだろう。

それにしても「ミーツ・ザ・ワールド」であんなに生き生きとした20代のオタク女性を描き出した金原さんが、舌の根の乾かぬ内に(?)老成と破滅衝動を内包する女性を描き出しているのは本当にすごい。ちょっとマンガとかアニメ的に楽しめるようなエンタメ感満載(もちろん金原さんのエッセンスは活かしつつ)の「ミーツ・ザ・ワールド」のすぐ後に、この「金原さん感」満載の一筋縄ではいかないぐちゃぐちゃの人間の心情が満載の作品が出せるなんて、それでいて本人は飄々としているように見えて、一体どういう頭の中をしているのか見られるのならば見せてほしいくらいだ。

# by innocentl | 2022-09-04 23:06 | 日常 | Trackback | Comments(0)